弘済 みらい園・のぞみ園の日常を綴ります。
暮らしに役立つ心理学のお話④
2022年03月29日(火曜日)
こんにちは。
暮らしに役立つ心理学のお話、第4回目です。
3回目は、『イヤイヤ期』の子どもは、自立と依存の間を行ったり戻ったりしながら自立に向かっていくというお話でしたね。
4回目は、『罪悪感』という感情についてのお話です。
これまで子育てに関わる話をしてきてなぜ突然『罪悪感』と思われた方もおられると思いますが、『罪悪感』という感情も子育てに大いに関わってきます。
それは、子どもが、言葉だけでごめんなさいというのではなく、本当に悪かったなと思って、心からごめんなさいと言えるのかということに関係します。
心からごめんなさいが言えるようになるためには、子どもが自分の心の中で『罪悪感』という感情を抱えておけるようになっている必要があります。
『罪悪感』は私たち大人でも、感じることはつらい感情です。
ですので、子どもははじめから『罪悪感』を感じることはできません。
ではどのような大人の関わりによって、『罪悪感』を感じることができるようになり、心からごめんなさいが言えるようになるのでしょうか。
イギリスの小児科医であり、精神分析医でもあるウイニコットという人の視点から考えてみたいと思います。
ウイニコットという人は、小児科医として、6万人の親子を診察して、さまざまな母親の役割についての理論を創った人です。
そのウイニコットの理論の中で、『生き残ること』という考え方があります。
ウイニコットは、子どもが『罪悪感』を抱くのは、『親が攻撃されても、不安になって逃げたり、怒って仕返しをしたりせずに生き残ること』と言っています。
実際にはどういうことかというと、例えば、赤ちゃんが泣いている時にお母さんはその理由を察して、ミルクをあげたりおしめをかえたりお世話をします。
時々赤ちゃんは、何をしても泣き止んでくれない、おさまってくれないように激しく泣くこともあります。
そんなとき、お母さんは、赤ちゃんから攻撃されているように感じるかもしれません。
それでも、たいていお母さんは、赤ちゃんを見捨てることなく、赤ちゃんが泣き疲れて寝て起きたあとは、また抱っこして話しかけたりします。
このような関わりがウイニコットのいう『生き残る』ということです。
もう1つ例を出すと、もう少し子どもが大きくなって、言葉で話せるくらいになった時、子ども自身が悪いことでも、子どもから「全部お母さんが悪い」と言われたことはないでしょうか。
そういう時に、お母さんが、「はいはい、お母さんが悪いのね」と子ども自身の『罪悪感』をいったん引き受けて抱えてくれるような関わりも、ウイニコットのいう『生き残ること』だと思います。
子どもは、だんだん心が成長していって、仕返しをしないで生き残ってくれたお母さんを、自分は攻撃していたことに気づき、本当に悪かったと『罪悪感』を抱くと言われています。
このように見てくると、子どもに悪いことをしたらごめんなさいと言いなさいと教えることで、本当に悪かったという気持ちをもって心からのごめんなさいが言えるようになるわけではないことが分かりますね。
子育てをしていて、ごめんなさいって言葉だけ言っていて悪いと思っていないような感じがしたり、ごめんなさいって言ってたのに、すぐにまた同じことを繰り返して、本当に悪かったと思ってるのだろうか、と心配になったときには、ごめんなさいと言うことを教えてあげる前に、子どもの気持ちをできるだけ受け止めていくことを考えてみてもいいかもしれませんね。
子どもの気持ちを受け止めて、仕返ししないで関わり続けることは本当に難しいことだと思います。
いつもそうできないといけないということではないと思います。
それを心がけるというくらいでいいのだと思います。
子どもの気もちを受け止めていく器を保っておくためには、お母さんをはじめ、子どもと関わる人たち自身が、誰か信頼できる人にたくさん気持ちを受けとめてもらう必要があると思います。
人に頼るのが難しいという人は、自分で自分の気持ちを認めてあげて、やさしくしてあげてくださいね。
それもできないという人は、そうできない自分をまずは認めてあげてくださいね。
第4回の『罪悪感』のお話はここまでです。
暮らしに役立つ心理学シリーズ、第2弾はこの回で終わらせていただきます。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
ご紹介が遅くなってしまいましたが、暮らしに役立つ心理学シーズの素敵なイラストは、4回とも岩元先生が描いてくれました。
岩元先生、ありがとうございました!
それでは、次はどんな暮らしに役立つ○○になるのでしょうか。
どうぞお楽しみにしてください!(^^)!
(平岡)
暮らしに役立つ心理学のお話③
2022年03月21日(月曜日)
こんにちは。
暮らしに役立つ心理学のお話、第3回目です。
2回目は、『自我』についてお話しをしました。
子どもが泣いてる時に、「おなかすいたね」「いたいね」などと声をかけながらお世話をすると、子どもの感情調整力や現実に適応していく力、自我の力を育てているというお話しでしたね。
3回目は、『イヤイヤ期』についてのお話しです。
1、2回目で学んできたように、養育者との間で愛着関係ができて、自我が育ってくると、2歳くらいから、子どもは親に反抗しはじめますね。
手伝ってあげようと思って手を貸すと、「ダメ!自分でやる!」と主張する。
この時期の子どもは、なんでも「自分でやる」と言ったり、親の言ったことには「いや」と反抗するというだけではない難しさがあるのではないでしょうか。
この時期の子どもにどう関わればいいのかについて、一緒に考えていきましょう。
乳幼児の母子分離の過程についての理論を創った、マーガレット・マーラーという精神分析家がいます。
マーラーは、イヤイヤ期が始まる頃(生後15か月くらいから24カ月くらいの時期)を再接近期と呼んで、この時期は、親から離れて自立していこうとする反面、親からの愛情を失うことを恐れて見捨てられ不安が高まり、ふたたび親にまとわりついてくる時期である言っています。
この時期の子どもは、お母さんが手伝おうとすると、「自分でやる」と言う。
自分でやってはみるけどできないと、「お母さんが手伝ってくれないからできない」と怒り始める。
なんでも自分でしたい時期と思っていると、できるようになっていることも「できない、お母さんやって」と甘えてくる。
お母さんとしては、子どもがどうしたいのか分からなくなる。
「もう勝手にどうぞ」と突き放したくなったり、甘えを受け入れていたら自立できなくなるんじゃないかと心配になったりもされるのではないでしょうか。
この難しい時期の子どもと付き合うことは、子どものことがよく分からなくて不安になったり、将来が心配になったり、手伝っても手伝わなくても怒るし、どうしてあげればいいのか大いに悩まれることと思います。
実は、子どもはわがままでやっているわけではなくて、これらの行動にはちゃんと意味があります。
子どもが心の中で何を頑張っているのか、それを先ほどのマーラーという人は、『自立したい気持ち』と『依存したい気もち』で葛藤していると言っています。
お母さんに手伝ってもらわずに自分で全部やりたい、自由にやりたい、という気持ちと、お母さんから離れて好きにやっているとお母さんから見捨てられるのではないかという不安との間で揺れ動いているのです。
ではどう関わればいいかというと、マーラーは、『自立したい気持ちと依存したい気持ちの両方を満たしてあげながら、そっと自立の方に背中を押してあげたらいい』と言っています。
子どもが、自分でやれたことは「できたね」と認めてあげる。
できることもやってと言ってきたときは、「たまには甘えたくなるときもあるね」と言って受け入れてあげる。
こんなふうに、どっちの気持ちも満たしてあげることによって、子どもは少しずつ、自立に向かっていくと言われています。
マーラーという人がいうようなこんなすばらしい関わり、言葉でいうほど簡単ではないし、いつもはできないですよね。
怒ったり、突き放してしまうこともありますよね。
そんな時があってもいいと思います。ここまで見てきたように、できることができないと言って甘えてきても大丈夫、自立と依存の間を揺れ動きながら自立に向かっていること、十分に依存できた経験があって、自立に向かえるというこのプロセスを知っていると、少し子どもへの関わりに心のゆとりが生まれるのではないでしょうか。
第3回の『イヤイヤ期』のお話はここまでです。
次は第4回の最終回でまたお会いしましょう!(^^)!
(平岡)
暮らしに役立つ心理学のお話②
2022年03月14日(月曜日)
皆さん、こんにちは。
暮らしに役立つ心理学のお話、第2回目です。
1回目は、『愛着』についてのお話しでした。
安定した愛着ができていると、よいお母さんイメージが心の中にあって、お母さんから離れても安心して、大人とお話を楽しんだり、お友達と遊んだりできるんでしたね。
2回目は、『自我』についてのお話しです。
皆さんは、『自我が強い』と聞くと、どんなイメージを持ちますか?
おそらく、自分の考え、意思表示をしっかりして主張の強い人をイメージされる方が多いのではないかと思います。
心理学では、『自我』というと、自分をコントロールする働きのことをいうことが多いです。
自分の欲求や気持ちを調整して、現実にうまく適応し、自分の内面を安定させるようにする機能のことです。
例えば、授業中にお腹がすいて仕方なくなりました。でも授業中にご飯を食べることはできないので、授業が終わるまでは我慢して、終わってから美味しくご飯を食べました。
この状況は、お腹がすくという不快にある程度持ちこたえて、授業を受けるという現実に適応し、終わってからご飯を食べて、自分の欲求を満たしていて、自我が育ってくれているという証です。
赤ちゃんや2、3歳の幼児さんを見ていると、自我がまだ未熟なのが分かります。
例えば、赤ちゃんは、お腹がすいたり、おむつがぬれて気持ち悪いと、泣き叫んでいます。
スーパーでお菓子を買ってもらえない時に、床にひっくり返って泣いている子どもを見かけることもよくありますね。
小さい子どもがまだ、今日はお菓子を買ってもらえないけど我慢しよう、と不快な感情に持ちこたえたり、スーパーの床でひっくり返るのは他の人の迷惑になるのでやめよう、と思えないのは、自我が十分には育っていないからです。
では、自我はどうやって育っていくのでしょうか?
お母さんは、泣いている赤ちゃんがいたら、抱っこしながら、「お腹すいたね」「おむつぬれて気持ち悪いね」と話しかけながら、おっぱいをあげたり、おむつを替えたりお世話をして、不快な感情を解消して、欲求を満たしてあげますね。
このような関わりを日々くりかえすことで、赤ちゃんは、自分のこの不快な状態が、お腹がすいている、おむつがぬれて気持ち悪いと理解できるようになります。
これは、認知が発達していくと、「お腹すいた、お菓子食べたい」など言葉で欲求を伝えることにつながります。
それだけではなく、お母さんから話しかけられながら抱っこされることで、体と気持ちを抱えてもらい、赤ちゃん自身が不快な状態に耐える力がついていきます。
自我の力がついてくると、欲求不満な状態に、耐えること、待つことができるようになっていきます。
このように、お母さんをはじめとして子どもに関わる大人が日々何気なくしていることが、赤ちゃんの欲求を満たすことだけでなく、自分をコントロールする自我を育てているということになります。
毎日くり返していることに、何の意味があるのか分からないと感じたことがある方も多いのではないでしょうか?
日々何気なくしている関わりが、子どもの心を育てている、子どもの役にたっている意味のあることと思ってもらえると嬉しいです。
第2回目の『自我』のお話はここまでです。
次は第3回でまたお会いしましょう!(^^)!
(平岡)